「天災は忘れた頃にやってくる」
寺田寅彦の名言として有名なこの言葉。実は寅彦が書いた文章としては
残っていない。弟子の中谷宇吉郎も「国民座右銘」の9月1日のところに寅
彦の「天災は忘れられた頃に来る」について書くように依頼されたとき、
探したが見つからなかったと、のちに「百日物語」に書いている。本人が
書いていない言葉が現在まで残っているほど、寅彦が口にしていたという
ことだろう。実際に「天災と国防」や「津浪と人間」など、くり返される
天災に対する私たちの心構えを説く文章は多く残っている。
寺田寅彦の科学論文
鈴木堯士高知大学名誉教授によると、寅彦が生涯で書いた科学論文224編
のうち、101編が「地球科学」に関する論文だという。特に、地殻運動や
地震学に関する論文が多く、中には現在でも通用する時代を先取りしたよ
うな論文も多いという。寅彦は、地球科学の第一人者だといえる。また、
寅彦が「Nature」に発表した「X線と結晶」という論文は、ほぼ同時期に
イギリスのブラック父子が類似した研究をし、ノーベル賞を受けている。
これについては、日本の地理的な不利や研究設備の相違が無ければ、寅彦
がノーベル賞をとったのではないかといわれている。
「ねえ君、不思議だと思いませんか?」
寅彦はこの言葉をよく口にしていたという。弟子の中谷宇吉郎や宇田道隆
(高知出身)も、それぞれ自身の文章の中で、このことを書いている。寅
彦の、身近なものに不思議な点を見出し、研究していくという姿勢は、私
たちも見習うべき点だといえる。寅彦は、「茶碗の湯」や「椿の花の落
下」「金平糖」など、身近にあるものに不思議を見出し、実験や考察を重
ねていたことが分かる文章も多く残している。